◆肥後の守 鉛筆けずりの手がそれて、アイタタ・タタと口は云うなり!

【禅者の一語】碧巌の歩記(あるき)NO19  

肥後守(ひごのかみ)鉛筆削りの手が逸(そ)れて「アイタタ・・タタ!」と口は云うなり。

素玄居士曰く・・無門関の提唱をする以上、この一語は正札の一頌だぞ!(はてなブログ 禅のパスポート 第3則復刻意訳 参照)肥後守・・昔、鉛筆けずりの小刀のことをヒゴノカミといった。

     碧巌録 第十九則 俱胝只堅一指(ぐてい ただいっしをたつ)

【垂示】圓悟の垂示である。現代の量子論風にいえば、一量子の中に宇宙の原理があり、一花開けば世界が動く。ただし、一塵いまだ上がらず、一花いまだ開かざる場合は、どこに着眼すれば透徹できるのか。もし一束の絹糸の巻き締糸を断ち切れば、一斬一切斬。染めれば一染一切染となる。とは言え、悩みや苦しみをスッパリ断ち切って、無一物即無尽蔵の禅境(地)を現成する者がいるかどうか・・。

どうにもならぬ輩は、この公案を看取せよ。

    【垂示】垂示に云く、一塵(じん)をあぐれば大地おさまり

        一花ひらけば世界起る。

        ただ塵(ちり)いまだ挙(あ)がらず、花いまだ開かざる時の如きは

        いかんが着眼せん。

        ゆえに道(い)う、

        もし一綟絲(いちれいし)を斬れば、一斬一切斬(いつさいざん)。

        もし一綟絲を染(そ)むれば、一染(いちぜん)一切染と。

        ただ如今(にょこん)すなわち葛藤(かっとう)をもって裁断(さいだん)し、

        自己の家珍(かちん)を運出すれば 高低あまねく応じ、

        前後たがうことなく おのおの現成せん。

        もし或いは、いまだ 然らずんば 下文を看取せよ。

【本則】馬祖道一、大梅法常の法系、杭州天龍の「一指頭」の禅は、唐、武宗皇帝の仏教迫害(845年頃)福建省俱胝寺に預託された。

俱胝(伝記不詳)は、生涯、誰が問答を仕掛けようが、ただ指を一本立てるだけで押し通した禅者である。どんな因果、葛藤を持ち込まれようと、その一切をスパリと裁断する「一指頭」・・

一生使い続けても、使いつくせぬと遺偈している。

   【本則】挙す。

       俱胝和尚、およそ問(わ)るることあらば、ただ一指を竪(た)つ。

 【頌】雪賓重顯は語る。

求道者への「一指頭」は、さすが俱胝ならではだ。まるで大海の盲亀(腹に一つ眼のある亀)と、節穴のある浮板のたとえ話のようだ。

(昔、腹部に一つ眼をもった亀がいた。上(空)を見ようとスレバ、逆さまにならないと見えない亀だった。ある時、波間に節穴のある浮木を見つけて、それにしがみついて逆さまになったら、お腹の一つ眼が板の節穴にピッタリ当てはまり、青空を見ることが出来たと云う。・・千歳一隅の機縁のこと)

俱胝さんの一指は、盲亀に対するチョウド節し穴の開いた浮き板のよう・・。

求道者(盲亀)相手に俱胝さんの苦労が続くわい。

    【頌】対楊(たいよう)深く愛す老俱胝。

       宇宙 空(くう)じ来たるに、さらに誰かあらん。

       かって滄溟(そうめい)に向かって、浮木(ふぼく)をくだしたるに、

       夜濤(やとう)相(あい)ともに盲亀(もうき)は接したり。

附記】俱胝さんには、自分の教導の真似をした弟子(小僧)の指を斬って見性させたという逸話が残っている。

ただし私は、この逸話を肯定しません。

唐の武宗皇帝が4万に及ぶ寺院を焼壊し、僧尼26万人を還俗せしめたという仏教大迫害のご時世に、わざわざ指を斬り落とさねば、小僧ひとりの出来具合(禅機・禅境)を見届けられない、情けないテイタラクの俱胝なら、天龍一指頭の禅など、とっくの昔に廃(すた)れている・・と看ます。

道端から、鴨が飛び立って、師の馬祖(道一)から「何処へ行った」と問われ「イチイチ行く先を告げて飛び去る鳥がおりましょうか」と反論した修行中の百丈(慧海)・・思い切り鼻先をひねられて省悟した逸話が、碧巌録53則「百丈野鴨子」(ひゃくじょう やおうす)にある。

自分の真似をする小僧相手に、ワザワザ包丁を隠し持っていて指先をチョン斬るとは・・ナントまあ・・師家にあるまじき無能な行いでしょう。正伝では、キット小僧の立てた指をひねりあげて悲鳴一声、省悟ありが正答だと思います。

この他、「南泉斬猫」とか「達磨安心」=(慧可断臂)とか・・

中国特有の白髪三千丈といった誇大な表現があるにしても、切った張ったのヤクザ話じゃあるまいし、殺伐とした公案の刃傷沙汰は無かったものとしておきます。

過去、こうした故事来歴を、さすが南泉とか、達磨ならでは・・と提唱してきた師家がたの勇猛な無神経ぶりに失望しています。

この件は各則の解説附記でお話しすることにします。